こんにちは、「ストーマライフなび」管理人のわるたーです。
私は35歳の時に直腸がんステージ3と診断され、治療によってオストメイトになりました。 最近は医療の進歩によって、直腸がんでも肛門温存が可能なケースが増えています。実際、私も主治医から「一時的にストーマをつくりますが、肛門は残せます」と説明を受けました。
けれど、私が選んだのは「永久ストーマと生きる」という道でした。
この記事では、私がなぜ永久ストーマを選び、その選択をどう感じているのかを、体験記としてお伝えします。 同じように手術を控えて不安を抱えている方に、「選択肢は一つではない」ということを少しでもお伝えできれば嬉しいです。
死の恐怖と、治療への不安
35歳のとき、下血をきっかけに受けた検査で「直腸がんステージ3」と告げられました。診察室で医師の言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になり、足が宙に浮いているような感覚になりました。「死んでしまうかもしれない」――恐怖で胸が締めつけられました。
けれど主治医から「手術で根治を目指せますよ」と言われたとき、暗闇に小さな光が差したような安堵を覚えました。
しかし、その直後に手術の説明が始まります。
「直腸からS字結腸の大部分を切除します。腸をつなぐ際に縫合不全のリスクがあるため、一時的にストーマを造設します。安定すれば再手術で肛門からの排泄に戻せます。ただし、直腸を大きく切除するため排便障害が起きる可能性が高いです」
「人工肛門って、どうやって生活するんだろう…?」
「排便障害って、どれくらい大変なんだろう…?」
疑問が浮かんだものの、「治療できる」という希望が勝って、その場では深く聞き返す余裕はありませんでした。
しかし時間が経つにつれて、手術後の生活に対する不安が大きくなっていきました。ネットや動画で体験談を調べると、ストーマには専用のパウチを装着し、日常的に排泄物の処理や交換を行う必要があることを知りました。適切にケアしなければ、漏れや皮膚トラブルが起きるという現実にも直面しました。
さらに排便障害についても調べると、1日10回以上トイレに駆け込んだり、便意がコントロールできずに漏れてしまったりすることがあると知りました。
「排便障害になったら、仕事どころか外出すら怖くなるかもしれない」――術後の生活を思い描くたびに、不安が膨らんでいきました。
「いずれは肛門から排泄に戻せる」と聞いて安心していたはずなのに、気持ちは次第に揺れ動いていったのです。
先輩オストメイトとの出会い
そんなとき、私はある直腸がんサバイバーの体験記に出会いました。 その方は、一時的ストーマを閉じたあと排便障害に長く苦しみ、最終的に別の病気によって永久ストーマになった方でした。驚いたのは、その方が「永久ストーマになったことで、むしろ生活の質が上がった」と語っていたことです。
「オストメイトとして不便はあるかもしれない。けれど、排便障害に縛られるよりも自由に生きられるのではないか」 そう考え始めた私は、「永久ストーマにしたい」という思いを心の奥に抱くようになりました。
手術前日、入院先でストーマ装具の販売業者の方から、退院後の装具の購入方法について説明を受けました。思い切って私は「一時的ストーマよりも、永久ストーマのほうがいいのではないかと悩んでいる」と相談しました。すると驚いたことに、その方自身もオストメイトであり、同じように迷った末に永久ストーマの手術を選んだ方でした。
「ストーマは確かに不便なこともあるけれど、排便障害の不安がなくなった安心感のほうがずっと大きいんですよ」
その言葉を聞いた瞬間、重くのしかかっていた不安がふっと軽くなり、胸の奥に光が差したような感覚を覚えました。
その夜、私は主治医に「永久ストーマを選びたい」と伝えました。 先生は手術前日にもかかわらず丁寧に耳を傾け、「多くはないが、最初から永久ストーマを選ぶ人もいる」と教えてくれました。さらに、「回腸にストーマをつくるとケアが大変だが、結腸にストーマをつくれば比較的扱いやすい」「もしどうしてもストーマが受け入れられなければ閉鎖の余地を残せるように手術する」と現実的な選択肢を示してくれました。
私は改めて、自分のこれからの人生を思い描きました。仕事への復帰、旅行や外出の楽しみ…。排便障害で生活が制限されるよりも、ストーマを受け入れて安心して暮らすほうが、自分らしい。
こうして私は、「永久ストーマ」を選びました。
ストーマと共に歩む日々
手術後の生活は、最初から順調だったわけではありません。 パウチの交換に時間がかかり、外出先で漏れたらどうしようと不安になる日々。お腹のストーマを意識するたびに「本当にやっていけるのだろうか」と心細くなりました。
けれど、少しずつ試行錯誤を重ね、ケアのコツをつかむことで状況は変わっていきました。装具の扱いにも慣れ、生活のリズムにストーマのケアを自然に組み込めるようになりました。
そしてあるとき気づいたのです。
「手術前よりも自由に生きられている」と。
もともと胃腸が弱く、外出するたびに「近くにトイレはあるだろうか」と不安を抱えていた私にとって、パウチに便をためて処理できる安心感はポジティブな変化でした。
今では、食事の制限もほとんどなく、旅行やスポーツも手術前と変わらず楽しめています。
「ストーマがあるから無理」ではなく、「ストーマがあってもできる」。そう思えるようになったことが、私にとって一番の収穫でした。
永久ストーマと私の答え
排泄は人間の尊厳にかかわることです。だからこそ、医師は可能な限り肛門を温存する治療を考えてくれます。
けれど、それが本当に「自分にとっての最良の選択」かどうかは別問題です。
私は排便障害のリスクを考え、手間があっても制限が少ない永久ストーマのほうが自分らしいと判断しました。
この選択に納得できたのは、生活の優先順位を見つめ直し、相談に乗ってくれた先輩オストメイトや主治医がいたからです。手術前に不安を率直に伝えたことで、治療内容やストーマの位置も調整してもらえました。その結果、今こうして快適に過ごせています。
私は心から「永久ストーマを選んでよかった」と思っています。
おわりに──新しいスタート
がんと診断されたとき、将来のことを冷静に考える余裕はほとんどありませんでした。ただ目の前の治療を受け入れるしかなく、不安と恐怖で心がいっぱいになりました。
けれど、手術を待つまでの間に「自分がこれからの人生で何を大切にしたいのか」を見つめ直すことができました。その視点を持てたことが、私にとって後悔のない選択につながったのだと思います。
ストーマは、決して生活の自由を奪うものではありません。むしろ、日常を安心して過ごせるための大切なパートナーです。
私にとっては「終わり」ではなく「新しいスタート」でした。
もちろん、最初から前向きに受け入れられる人ばかりではないと思います。悩み、迷い、時には落ち込むこともあるでしょう。それでも、少しずつ自分なりの工夫を重ねることで、生活は確実に安定していきます。
この体験記が、これから手術を受ける方や、不安を抱える方にとって、前を向く小さなきっかけになれば嬉しいです。


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